前回の記事では、
同業他社3〜5社のIRをAIに読ませて、各社の戦略を比較し、自社戦略のヒントを探す
という使い方を紹介しました。
決算数字を要約してもらうだけではありません。
見たいのは、
どこに投資しているのか。
何を伸ばそうとしているのか。
何を縮小・撤退しているのか。
どんなKPIを重視しているのか。
そして、
同じ業界にいるのに、なぜ各社の戦略が違うのか。
今回は、そこまで一気に整理するためのAIプロンプトを公開します。
まず用意する資料
最初に、比較したい同業他社のIR資料を用意します。
目安は3〜5社です。
1社だけでも分析できますが、今回の目的は比較なので、複数社あった方が違いが見えやすくなります。
使いやすい資料は、
- 決算説明資料
- 中期経営計画
- 有価証券報告書
- 統合報告書
- 適時開示
- 事業戦略説明資料
などです。
最初から全部そろえなくても構いません。
まずは、
直近の決算説明資料+中期経営計画
くらいから始めても十分です。
できれば複数年分を用意する
さらに一歩進めるなら、
直近3年程度
の資料を用意します。
1年だけだと、
「今何をしているか」
は見えます。
でも複数年並べると、
戦略がどう変わったか
まで見えてきます。
例えば、
2024年は売上拡大。
2025年は収益性改善。
2026年は低採算事業の整理。
という変化があれば、
経営の重点が動いていることが分かります。
AIに大量の資料を読ませる意味は、こういう時系列比較にもあります。
実践プロンプト【コピペOK】
以下をそのまま使えます。
あなたは企業戦略分析を支援するリサーチアシスタントです。
これから、同じ業界に属する複数企業のIR資料を入力します。
目的は、各社の決算数字を単純に要約することではありません。
各社が、
・どの市場で成長しようとしているか
・何に経営資源を投じているか
・何を縮小・撤退しているか
・どのように収益性を高めようとしているか
・どのKPIを重視しているかを比較し、
各社の戦略の違いと、その背景を整理すること
です。
最後に、この比較結果をもとに、
自社が戦略を考える際に検討すべき論点
を仮説として提示してください。
ただし、競合他社の戦略をそのまま真似することを目的にしないでください。
必ず以下のルールを守ってください。
- IR資料に記載されている事実と、そこから考えられる仮説を分ける
- 資料に書かれていない内容を事実として断定しない
- 不明な点は「不明」「要確認」とする
- 各社の戦略を優劣だけで評価しない
- 同じ業界でも、会社ごとの強み・制約が違うことを前提にする
- 数字だけでなく、経営方針・投資・撤退・KPIの変化を見る
- 複数年資料がある場合は、戦略の変化を時系列で整理する
以下の観点で分析してください。
【1. 成長領域】
・今後伸ばそうとしている事業
・重点地域
・新規事業
・海外展開
・重点顧客層【2. 経営資源の配分】
・設備投資
・研究開発
・人材投資
・DX投資
・海外投資
・新規事業投資【3. 撤退・縮小】
・不採算事業
・店舗・拠点の整理
・事業売却
・商品ライン削減
・撤退地域【4. 価格・収益戦略】
・値上げ
・高付加価値化
・サービス比率の向上
・サブスクリプション化
・クロスセル
・顧客単価向上【5. M&A・提携】
・買収
・業務提携
・資本提携
・M&Aの目的
・期待するシナジー【6. 重視KPI】
・売上高
・営業利益率
・ROIC
・ROE
・市場シェア
・海外売上比率
・顧客単価
・継続率
・契約数
・その他、各社が重視している指標【7. 経営課題】
・各社が認識している課題
・リスク
・人材不足
・原材料
・競争環境
・規制
・市場縮小
・その他の重要課題【8. 複数年の変化】
複数年分の資料がある場合、
・以前は重視していたが、現在は弱くなったテーマ
・新しく重点化されたテーマ
・投資が増えた領域
・投資が減った領域
・新しく追加されたKPI
・使われなくなったKPIを整理してください。
まず、各社を以下の形式で比較表にしてください。
項目 A社 B社 C社 D社 E社 成長領域 主な投資先 撤退・縮小 価格戦略 M&A・提携 重視KPI 主な経営課題 次に、以下を整理してください。
【各社の戦略を一言で表す】
各社の戦略を、30〜50文字程度で簡潔に表してください。
【各社の戦略の共通点】
同業各社に共通している戦略や課題を整理してください。
【各社の戦略の相違点】
同じ市場環境でも各社が違う選択をしている点を整理してください。
【戦略の背景】
なぜ各社がその戦略を選んでいると考えられるか、
・IR資料に書かれている事実
・そこから考えられる仮説を分けて説明してください。
【業界全体の方向性】
複数社に共通する動きから、業界全体で起きている可能性がある変化を整理してください。
【自社が検討すべき戦略仮説】
最後に、この比較から考えられる
「自社が検討すべき戦略上の問い」
を10個挙げてください。
例えば、
・成長市場への資源配分を増やすべきか
・不採算領域を整理すべきか
・価格戦略を見直す余地はないか
・既存顧客からの収益を増やせないか
・M&Aや提携を使った方が早い領域はないか
・現在重視しているKPIは適切かなどです。
最後に、
「すぐに検討する価値が高い論点」
を重要度順に5つに絞ってください。
以下が分析対象企業のIR資料です。
【A社】
(資料を入力)
【B社】
(資料を入力)
【C社】
(資料を入力)
必要に応じてD社、E社を追加してください。

最初から「自社への答え」を求めない
このプロンプトで重要なのは、
いきなり、
「うちの会社は何をすればいい?」
と聞かないことです。
まず、
他社が何をしているか
を事実として整理する。
次に、
なぜ違うのか
を見る。
そのあとで、
自社なら何を検討すべきか
へ進みます。
この順番の方が、AIの回答も整理しやすくなります。
「事実」と「仮説」を分ける
ここは特に重要です。
例えば、
A社が海外工場への投資を増やしていたとします。
事実は、
「海外工場への投資額が増えている」
です。
そこから、
「国内市場の成長余地が小さいため、海外に成長機会を求めているのではないか」
と考えることはできます。
でも、後者は仮説です。
AIはこの2つを混ぜることがあります。
だからプロンプトでは、
事実と仮説を分けてください
とはっきり指示します。
「共通点」だけでなく「違い」を見る
例えば同業5社のうち4社が海外展開を強化していた。
これだけでも、
業界全体の方向性を見るヒントになります。
でも、もっと面白いのは、
海外へ行かない1社
です。
なぜその会社だけ国内に集中しているのか。
ブランド力が強いのか。
国内市場にまだ余地があるのか。
海外展開する能力がないのか。
利益率を優先しているのか。
多数派と違う戦略
にもヒントがあります。
「投資先」はかなり重要
経営戦略を読むなら、
経営者の言葉だけでなく、
実際にお金を使っている場所
を見ます。
例えば、
「DXを推進します」
と書いてある。
でも投資額はほとんど変わっていない。
逆に、
人材投資や研究開発費が大幅に増えている。
こういう場合、
会社の本当の優先順位は後者かもしれません。
AIには、
言葉と資源配分が一致しているか
まで見てもらうと面白いです。
「撤退」は弱さではない
撤退や縮小は、
一見ネガティブに見えます。
でも、
低採算事業から撤退して、
成長事業に人や資金を移しているなら、
むしろ戦略的です。
だからAIには、
「何をやめたか」だけでなく、「その資源をどこへ振り向けたか」
まで見てもらいます。
KPIの変化を見る
企業が何を重視しているかは、
KPI
にも表れます。
例えば、
以前は売上高を強調していた。
今は営業利益率を強調している。
これは、
成長重視から収益性重視へ変わった可能性があります。
あるいは、
新規顧客数から継続率へ変わった。
店舗数から既存店売上へ変わった。
この変化は、
経営の考え方が変わったヒントになります。
自社の情報も少し入れると使いやすい
さらに実務で使うなら、
プロンプトの最後に、
自社の簡単な情報
も加えます。
例えば、
【自社の状況】
・主力事業:○○
・主な顧客:○○
・強み:○○
・課題:○○
・現在の重点施策:○○
・投資可能な経営資源:○○この条件を踏まえ、他社の戦略をそのまま真似するのではなく、自社が検討可能な戦略仮説に絞ってください。
こうすると、
単なる競合分析から、
自社向けの戦略検討
に近づきます。
「施策」より「問い」を出してもらう
個人的には、
AIに、
「具体的な戦略を10個出して」
と聞くより、
「検討すべき問いを10個出して」
の方が使いやすいと思います。
例えば、
「海外展開すべき」
ではなく、
「自社の強みが海外市場でも通用するか?」
「値上げすべき」
ではなく、
「顧客が価格より価値を重視する領域はどこか?」
「M&Aすべき」
ではなく、
「自前で育てるより買った方が早い能力は何か?」
こういう問いなら、
社内でも考えやすい。
AIに答えを出してもらうというより、
考えるべき論点を増やす
使い方です。
営業担当でも使える
このプロンプトは、
経営企画だけのものではありません。
営業担当でも使えます。
例えば同業他社が、
既存顧客へのクロスセル
を強化している。
あるいは、
高価格帯商品へのシフト
を進めている。
それが複数社で共通しているなら、
営業現場にも何か変化が起きているかもしれません。
自社の営業戦略を考える材料になります。
AIの回答をそのまま戦略にしない
ここは最後にもう一度。
AIが、
「海外展開を検討すべきです」
と言ったから海外へ行く。
という使い方ではありません。
AIにやってもらうのは、
資料を読む。
比較する。
違いを整理する。
論点を出す。
ところまで。
自社の、
- 資金
- 人材
- 技術
- 顧客
- ブランド
- 組織
まで考えて決めるのは、人間です。
IRを「読む資料」から「考える材料」に変える
同業他社のIRは、
決算数字を確認するだけでも使えます。
でもAIを使えば、
3社。
5社。
3年分。
といった大量の資料を横断して整理できます。
すると、
誰がどこへ向かっているのか
が見えてくる。
さらに、
なぜその方向へ向かっているのか
を考える。
最後に、
自社なら何を検討するか
へ持っていく。
IRを読む目的を、
「他社を知る」
から、
「自社について考える」
へ変える。
AIとの相性がかなりいい使い方だと思います。


